
かれたのは
2017年09月14日

トランの子らに疫病が蔓延《まんえん》して以来、隠されたままになっている秘密である。『侵略者の書』には、これらギリシア人の息子たちがすべてタライトに葬られたと記されているが、キルデリイの老人たちにいわせると、月の女神の保護を受けずに見すごされた都市が一つあったので、ネメドの民が三十隻の船でスキタイから殺到したとき、樹木の茂った丘陵によって葬るしかなかったらしい。
村人たちをキルデリイから立ち去らせた空疎な話とはこのようなものであって、わたしはこれらを耳にしたとき、バリイが取りあわなかったのも当然だと思った。しかしバリイは古代の遺物に並なみならぬ興味を抱き、湿原の干拓が終われば徹底した調査をおこなうつもりだった。小島の白い廃墟を頻繁に訪れていたが、まさしく古さびたものでありながらも、その外形はアイルランドの多くの遺跡とはかなり異なっているし、ひどく崩れはてているので、いつの時代のものかもわからなかった。いまや干拓のための作業がはじまろうとしており、まもなく北部から来た作業員たちが、禁断の湿原から緑の苔や赤いヒースを剥《は》ぎとり、小さな貝殻に覆われた小川や、藺草《いぐさ》に縁取られる静まり返った青い池を干上がらせることになっていた。
わたしはその日の旅で疲れきっていたし、バリイが深更まで話しこんだものだから、こうしたことを聞かされたあと、ひどい眠気を感じた。召使いに連れてい、離れたところにある塔の一室で、村、湿原のはずれの平地、湿原そのものが見渡せるので、窓からながめてみると、月光のもとで、農夫たちが逃げ出していまでは北部の作業員が暮している家屋のひっそりとした屋根や、古風な尖塔《せんとう》のそびえる教区の教会、陰気な湿原の彼方の小島で遙か昔の廃墟がぼうっと白く輝いているのが見えた。眠りこむ直前に、その方角からかすかな音が聞こえたような気がした。荒あらしい音楽のような音で、わたしを異様に興奮させて夢に影響をおよぼした。しかし翌朝目覚めたときには、すべては夢だったのだと思った。目にしたものが夜の荒あらしい笛の音色よりも素晴しかったからだ。バリイから聞かされた伝説に影響されたのだろうが、まどろみのなかでわたしの心は緑したたる谷間の壮麗な都市の上空を舞い、大理石の通りや彫像、邸宅や神殿、彫刻や碑文がことごとく、一定の調子でギリシアの栄光を告げているのを知った。この夢をバリイに話して、二人で笑ったが、バリイは北部から来た作業員のことで困惑していたので、笑い声はわたしのほうが大きかった。作業員たちは前日早めに休んだというのに、全員が寝すごして、ぼうっとした感じでのろのろと起きだし、よく眠っていないかのように振舞うのは、これで六度目だった。
バリイが干拓の作業をはじめ
Posted by geraniumbaby at 12:28│Comments(0)